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「新薬アクセスの実効性を高めるためのヒント -ドラッグロスから見た考察 -」Part.2
IQVIAジャパン メディアセミナー(2024年2月6日開催)レポート
Jun 05, 2024

IQVIAジャパンは過日メディアセミナーをオンサイトで開催。特にEBP(新興バイオ医薬品企業:Emerging Biopharma)由来のドラッグロスから日本の新薬アクセスのあり方について、国立がん研究センター中央病院の副院長/先端医療科・科長の山本昇氏と、EIKI CONSULTING,LLC プレジデントの栄木憲和氏による講演と、お二方のディスカッションによって考察を加えた。本メディアセミナーの開催レポートでは、山本昇氏の講演をPart1、栄木憲和氏による講演をPart2とし、各編にディスカッションを加えてまとめた。

「新薬アクセスの実効性を高める」(EIKI CONSULTING,LLC プレジデント 栄木憲和氏)

バイオクラスターとEBP

2014年から米国に移住している視点で日米を俯瞰してお伝えしたい。まず、世界のバイオハブの現状として、ライフサイエンス分野のスタートアップ・エコシステムの都市別ランキングでは、トップのシリコンバレーを筆頭に米中欧の都市が10位以内の多くを占め、日本の都市は東京でさえ26位(2021年時点)と大きく離されている。 また、米国でNIH予算の70%を占めるバイオクラスタートップ10の規模は桁違いであり、米日の比較は以下となる。

NIH(米国国立衛生研究所)とAMED(日本医療研究開発機構)の予算規模格差

  • NIH 約6〜7兆円
  • AMED 約3,300億円
    (せめてNIHの3分の1である1.5兆円程度の予算規模が必要と考える)
クラスター成功の鍵は?

日本でも現在、Great Tokyo Bio community(GTB)計画が進んでいるが、ボストンのケンダルスクエアと比較すると、まず以下の点で環境が大きく違うことを強調したい。

  1. 職住融合(働くだけの街から生活を楽しむ街へ:研究者同士が気軽に食事をしながらコミュニケーションを活発に取れる環境)
  2. 利便性(交通・買い物・娯楽など)
  3. 多様性(国籍・言語・教育施設・異文化共生など)

日本では研究所はあくまでも職場であり、長時間の通勤・インターナショナルスクールの併設など生活環境におよぶ整備が十分でなく、けいはんな学研都市・つくば研究学園都市は失敗だったと思う。研究者だけのまちづくりではなく、研究者の家族や暮らしを考慮に入れた街づくり、職住融合で楽しんで働くということが大切だ。GTBはそういう機能も兼ね備えたものになることを期待している。

また、米国と日本では研究者の給与があまりにも違うことも指摘したい。
日本ではバイオのCEOでも平均年収2,000〜3,000万円であるが、米国では年収5,000万円以上、ストックオプションによって数億円以上の収入があることなども珍しくない。研究者(リサーチャ―)の平均年収でも1,000〜1,500万円と、日本の研究者(500〜800万円)の倍近くに及ぶ。カルチャーの違いは大きいが、日本のバイオ業界の底上げには、アカデミアの研究開発費、社員・役員の年収引き上げは必須であると考える。

VC(ベンチャーキャピタル)投資の活用

米国のVC投資額は産業全体で総額約42兆円にのぼるが、日本は3,400億円と120倍の差がある。またバイオベンチャー投資においても、米国が4.2兆円規模であるのに対し、日本では250億円と170倍の差があるのが実情である。この規模で世界に羽ばたこうというのは無理な話であり、「死の谷」を乗り越えるために米国のVC投資の活用が必要である。

EBPの役割とは

2023年米国FDA(CDER)新薬承認55品目で、低分子分野34品目のうち70%を占める24品目がEBPで開発・上市されている。ちなみにドラッグロスは日本だけの問題ではなく、ドイツも同じ状況だし、米国でも未承認薬が20%あることは厳然とした事実である。

米国の新薬承認で注目すべき点は、高分子ばかりの開発ではなく、低分子の新薬開発も62%と堅調で、希少疾患開発が全体の半数を占めているのがその特徴的である。また、米国では新製品開発の53%をEBPが担っているという点もわが国と異なり、革新的新薬が創出される源泉となっている。

創薬力とドラッグロス

日本の製薬企業のグローバル売上比率は1995年から2020年にかけて、21%から7%まで減少した。

1980年代は新規化合物の開発でグローバルの29%(130品目)を占め、GDP比で米国を凌駕していたが、直近でのイノベーションは7%(27品目)まで低下している。

こうしたドラッグロスに対しては、現状の薬価制度も環境変化へ適応させていくことが必要と考える。

国内創薬力への薬価制度のインパクト

  1. バイオ医薬品のイノベーションを減弱
  2. 投資のインセンティブが減少
  3. 製薬企業の収益を圧迫

日本のバイオ医薬品の研究開発面における課題

  1. 政府の基礎科学への投資規模
  2. 製薬企業とアカデミアの連携
  3. バイオスタートアップへの投資規模
  4. 薬事制度の迅速性・柔軟性
  5. レギュラトリーの国際標準化

政府は競争力のあるバイオ医薬品産業の育成と、世界最速で進行する超高齢化社会の医療費を管理するという、相反する課題に取り組むことにより、他の先進国のモデルになることができると考える。

創薬力の強化に向けて アカデミア・EBPへのR&Dを増やす

私は、このままでは半導体と同じ道を進むのではないかと危惧している。創薬力がないと、ドラッグロスが発生することは、COVID19ワクチンの例を見ても明らかだ。例えば、トランプ政権は米国民へのワクチン接種がいち早く進むのであれば、どこの製薬企業でも問わないという姿勢だった。必ずしもオールジャパン創薬に固執するべきではない。それによって影響を受けるのは患者である。

良いシーズであれば日本だけでなく、欧米を含めた全世界の患者に一番早く届けることを考えるべきである。導入、導出、M&A、パートナリングなど、製薬企業はあらゆる手段を使い、新薬を患者に届けるのが製薬企業の社会的使命だ。
また、希少疾患へのアプローチなど、世界の患者さんに目を向け、最初からグローバル開発を目指す視点が重要であると考える。

創薬力の強化には、米国のVC投資を活用することでアカデミア・EBPの「死の谷」を乗り越え、予算を増やすことが肝要である。
日本の製薬企業も米国にCVCを設立するなど積極的に米国に足場を作り、自分達のプレゼンスを知らしめる活動を行うことが求められる。またGTBと並行して、若い日本人研究者を米国に送り、国際的な競争の中での研究開発経験が必要であることを強調したい。

Discussion

――今後のEBPへの効果的なリーチとして、EBPのターゲティングやターゲットへのコミュニケーションについてはどうお考えでしょうか?

悩ましいところだが、まず自分たちがどのような会社でどのような製品を求めているかを明確にしてターゲットを決めることが肝要。そして米国でビジネスをやりたいのであれば、最低でも英語で会社説明・ピッチプレゼンテーションはできる必要がある。私は今、米国で日本のバイオ企業の視察団を受け入れることも多いが、帰国後にレスポンスやフィードバックがないことが問題だと感じている。在米の企業にとって、視察後のレスポンスが無ければ将来事業を一緒にやるのかやらないのかわからない。
そして、一番重要なのは米国に拠点を持つことで、継続的に活動していくなら米国に常駐している必要がある。

――海外(米国)クラスターに倣う日本の創薬エコシステム構築についてはどう感じていらっしゃいますか?

日本企業が米国で創薬したいと考えても、シリーズAの予算規模は10億程度。米国ではEBPでも50億円〜100億規模なため、相手にしてもらえない。
日本のシーズをもって、米国企業にいかにアプローチをするか。待っていても新薬は来ない。
特に日本にあまり関心のない企業に、日本にも対象患者がいることを日本側からアプローチする必要性がある。

――新薬へのアクセス力および創薬力の強化を進めていく上でふまえておくべき日本の強みについてどうお考えでしょうか。

技術的な点で、低分子に強いことは現時点でも強みだと考える。低分子は計算分子化学などのさまざまな分野でベースになるものなので、大事にするべきである。他には10年先を見据えると、現在日本がリードしているゲノム編集技術CRISPR-CAS3は大きな強みだ。

また、日本の医療費は米国と比べて安価である。米国で私たち夫婦は月に50万円ほど医療費を支払っている。そして米国での自己破産の大きな原因の一つは医療費によるものだと言われている。日本の医療・保険・薬価制度はドラッグロスの一因といわれることもあるが、私は世界に誇るべきものであると感じている。その上で、ドラッグロスを解消するためには我々が積極的に新薬開発と製品導入を推進していく必要がある。

――米国VCの日本への理解や関心、日本市場へ取り込むための要件はありますでしょうか?

まず米国VCは日本にほとんど興味がないし、現状を知らない。例えばベルギーのA社の成功事例があるが、資金が集まらないのは欧州も同じ状況で、米国へのアプローチを活発化している。 現地にCVC(Corporate Venture Capital:コーポレート・ベンチャー・キャピタル)などを置くことも重要だ。VCとのファンドオブファンズの活動も一助になる。

また、VC投資を念頭においた人材採用も不可欠だ。
米国のVCは、現地の著名なアカデミアの先生とつながりがあり、サウンディングボードという機能で投資案件のアドバイスなどを依頼しているケースがある。もちろん相応の報酬を支払う必要はあるが、米国でのインサイダーとして活動するには米国社会に根差したネットワークを活用することも重要である。

――今後日本が海外の企業とつながっていくためのタッチポイント機会の拡大について、お考えをお聞かせください

海外から日本のデータにアクセスしやすくすることも重要。現在、海外のEBPが参照するようなサイトが少ない。発信力の改善として、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が設置する海外事務所については、EBPに対して日本の承認制度をわかりやすく情報提供する役割を担うと期待している。

――ドラッグロスに対する日本の薬価制度の影響についてお考えをお聞かせください。

薬価制度については議論があるところだが、確実に薬価償還が保証されている点においては、必ずしも日本は魅力的ではないというわけではないと思う。

――最後に、新薬アクセスの実効性を高めるためのヒントについて、お考えをお聞かせください。

日本から海外への発信が重要。日本の研究費が低い現実に対処する一つの方法として、米国のVC、マーケットを利用する。知財が海外に流出するという懸念については、IP(Intellectual Property:知的財産権)は日本が持ち、大学のTLO(Technology Licensing Organization:技術移転機関) を強化し、日本の知財として蓄積していくことで解消できると思われる。

――本日は貴重なご講演とご意見を賜りありがとうございました。

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