IQVIAジャパンは2022年6月27日(水)にメディアセミナーをオンライン開催。昨年12月刊行の米国IQVIA INSTITUTEのレポート「The Global Use of Medicines2022」において、2026年に日本の医薬品市場規模がドイツに抜かれ、世界第4位に後退するというインパクトあるランク変動予測が発表された。それを受け、IQVIAジャパン バイスプレジデントの谷 将孝が「日本・ドイツの医薬品支出の推移」を、また北里大学薬学部臨床医学(医薬開発学) 成川 衛教授による「日本・ドイツの薬剤使用状況の比較」と題したプレゼンテーションで市場環境を比較し、また両者のディスカッションによって考察を加えた。本メディアセミナーの開催レポートはIQVIA谷のプレゼンテーションを前編、北里大学 成川教授のプレゼンテーション、およびDiscussionを後編としてまとめた。
欧州における医薬品の審査
日独比較の前提として、面積はほぼ日本と同じ、人口は日本の約2/3。名目GDPはドイツが4兆2,200億ドル、日本が4兆9,400億ドルとほぼ同規模の国だといえる。
欧州では、欧州連合(EU)の専門機関のひとつとして欧州医薬品庁(EMA: European Medicines Agency)が1995年に設立された。かつてはロンドンにあったが、現在ではブレグジットの影響でアムステルダムにある。ほとんどの新薬はEMAで中央審査され、欧州委員会(EC)が承認。これにより、27か国のEU加盟国及び3か国のEEA EFTA加盟国で販売が可能になる。
新薬(新有効成分)の審査期間の日米欧比較
現状、新薬が承認申請されてから承認されるまでの期間(中央値)は欧州で428日、米国で245日、日本で301日とすべて約1年程度で安定している。かつて日本は承認に非常に時間がかかっていた時期もあったが、現在は改善されている。
特に注目すべきは、欧州において薬事審査に関してはEMAで一括して行われ承認されるが、保険償還に関しては各国の保険制度はさまざまであり、そのタイミングや範囲、価格設定が異なるという点である。製薬企業は、承認前から欧州各国での販売計画を綿密に検討している。新薬へのアクセス環境を示すOECD加盟国における新薬の薬事承認から保険償還開始までの比較をみると、ランキングで日本は1位、ドイツが2位と両国非常に良好な環境である。フランスやフィンランドなどは、薬事承認から保険償還開始までに非常に時間がかかったり、保険償還されないものがあったりなどの問題がある。
ドイツと日本の比較:国民の保険状況、医療行政の背景
*ドイツの重要な製薬関連制度
公的医療における患者自己負担金
外来診療に関して自己負担はなく、入院診療の場合1日10ユーロ(年28日を限度)の負担が課される。薬剤費に関しては、基本的に薬局販売価格の10%だが(上下限額あり)、低価格帯の後発品は自己負担免除。また、参照価格を上回る製品に関しては、超過分を患者が負担するが稀。
世界の中での創薬力比較
医薬品の世界売上上位100品目の国別起源をみると、アメリカが一国で半数を占め、日本、ドイツは3位と4位。医療費の対GDP比も両国11%前後とほぼ同じ規模であることがわかる。
バイオシミラー(バイオ後発品)の使用促進に向けた取組も活発
現状ドイツではバイオ医薬品の割合は30%程度。公的医療保険中央連合会と連邦保険医協会は、共同のガイドラインによりバイオシミラーの最低使用割合を示している。地域レベルでは、公的疾病金庫との合意の下、エリスロポエチン、インフリキシマブ及びエタネルセプトなどのバイオシミラー製品に係る最低使用割り当てを例えば75%以上などと定めたところもある。また、医薬品安全供給法(2019年)でも、バイオシミラーの使用促進が盛り込まれ、近い将来、薬局におけるバイオシミラーの代替調剤が可能になる模様。
―成川先生ご講演ありがとうございました。もう少しドイツ事情についてお聞ききします。現在ドイツにおいて薬剤、医療分野で特に活発に議論はされている内容は何でしょうか(IQVIA谷)
「バイエル、ベーリンガーインゲルハイムなどドイツ国内の大手製薬企業の保護などの話はあまり聞かない。EUとして、よい薬を早く市場に出し早く患者さんに届けたいという思いがベース。社会情勢を受け、多剤耐性菌に対する抗菌薬などを含め安定供給が注目されている。また、市場の拡大に対して、新薬価格や使用に関するコントロールを強めるべきではないかという意見も政府内にある。新薬の早期有用性評価時間の短縮など、制度面での変化も考えられる。もしそうなると、製薬企業にとってネガティブな影響が出ることは避けられないだろう。」(成川教授)
―ドイツで薬剤に関わる政策、制度面での変化はあるのでしょうか。(IQVIA谷)
「バイオ製剤の拡大と、そこに対してバイオシミシラーの取り扱いはもちろん継続的な議論になっている。ドイツでもジェネリック導入当初は国民の不信感なども大きく、国を挙げての取組としてかなり努力し今に至っている。バイオシミラーについても同様の過程を経ていくことになると思われる。」(成川教授)
―成川教授が考える医薬品市場における「医薬品市場の魅力度」とは何でしょうか。(IQVIA谷)
「市場の大きさ、規模感は、研究開発の投資を如何に早く回収できるという点で重要だ。また、国としてや制度としての安定性、予見性も欠かせないと考える。規模に関わらず、将来の投資における重要なファクターになる。」(成川教授)
―「日本市場の魅力度」を高める施策にについてお考えをお聞かせください。(IQVIA谷)
「格段に規模が拡大することは正直期待できないが、予見性、安定性の維持改善、またそれらの情報発信を強めることに活路があるのではないか。日本に法人を持たない企業にとって、日本の情報は言語の問題もありやや届きにくい側面がある。細かい制度面などのPRも欠かせないだろう。また、海外企業の参入にとって、市場と合わせて開発環境面の魅力、また薬事制度面の魅力とのバランスが必要だと考える。」(成川教授)
成川 衛 教授 プロフィール
北里大学薬学部 臨床医学(医薬開発学)
1991年3月に東京大学薬学部を卒業、同年4月に厚生省(現:厚生労働省)に入省。以後、主として新薬の臨床試験・承認審査、薬事政策、医薬品規制の国際調和(ICH)、薬価制度などに関連する業務に従事。2007年3月に厚生労働省を退職、同年4月より北里大学薬学部准教授、2016年4月より現職。専門は、臨床試験、薬事 規制、生物統計学。
2016年4月より国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業プログラムオフィサー(非常勤)。
(北里大学ホームページ)