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日本企業の新薬創出力の現状と課題 -医薬品産業ビジョン2021の数的指標-
IQVIAジャパン メディアセミナー 開催レポート (2021年11月9日開催)
Corporate Communications, IQVIA Japan
Nov 09, 2021

8年ぶりの改訂となった「医薬品産業ビジョン2021」に、政策のフォローアップとなるKPI案の一つとして「世界売上高上位医薬品の創出企業の国籍」が選定された。同分析は日本製薬工業協会医薬産業政策研究所(以下政策研)が例年の定点調査として発表しているもので、今回初めて2014年以降の分析を振り返った調査も加えて、主任研究員である澁口朋之氏をお迎えして最新アップデートと共に解説された。

Keynote

日本は世界第3位の医薬品創出先進国

政策研ではグローバルレベルでの日本医薬品産業の創薬力を可視化する目的で、世界における売上高上位医薬品の創出企業国籍調査を継続的に実施している。2020年の世界医薬品市場は1兆3,054億ドルで、前年比2.6%増、そのうち世界売上高上位100品目は4,352億ドルとなっている。

分析対象のデータベースとして、IQVIA World Review Analystから世界売上高上位100品目の基本特許を出願した企業、大学の国籍を調査すると、2020年の調査で日本起源医薬品は9品目でアメリカ49品目、スイス10品目に次いで世界第3位であり、2013年の調査開始以降、日本は常に第2〜3位を保っていることから創薬先進国と言える。日本起源9品目中、7品目が化学合成医薬品、2品目がバイオ医薬品であった。世界売上高上位100品目に占めるバイオ医薬品の売上高推移を見ると、バイオ医薬品のシェアが年々伸びており、2019年には半分を超えるなど存在感を増している。また、日本は品目数では第3位だが、売上シェアという観点からは7%で第5位(上位はアメリカ、ドイツ、スイス、デンマークの順)であることから、化学合成医薬品主体であることも影響していると考えられる。

日本の新薬創出力はアジア唯一、世界第2位

世界売上高上位100品目において、毎年、入れ替えは10品目程度で長期に渡りランクインし続けている品目が一定数存在することから、調査開始の2013年を基準とし、2014年〜2020年に新規ランクインした76品目(11カ国)から、継続的な新薬創出力について調査すると、日本起源は9品目で、こちらもアメリカ38品目に次ぐ単独第2位で、アジア地域では唯一となった。近年、市場規模や研究開発投資額の大きさから注目の集まる中国は、本調査では確認できなかった。日本起源9品目について累積品目数推移を見ると、2014年から2017年にかけては増加傾向にあったが、ここ数年は停滞傾向となっている。承認品目の観点では日本起源品目の創出は継続しており、創薬国の中でその存在感を示す結果が出ている。一方で、年々売上高上位100位内にランクインするハードルは上昇していることから、あらためてバイオ医薬品の進展は日本企業における創薬研究の課題の1つであることが顕在化された。

医薬品発明でも日本は世界第2位の創薬研究力

本調査において、各製品の基本特許出願時に出願人企業に親企業がある場合は、親企業の国籍を採用するため、必ずしも「創出企業国籍=医薬品発明の場」とは限らない。例えば、親企業がRocheである中外製薬の場合、親企業国籍分類ではスイスになるが、出願人国籍分類では日本になるといったケースを鑑み、医薬品発明がどこで行われたかを把握するため、「出願人国籍」に注目して再集計を行った。

2014年〜2020年の新規ランクイン76品目の国別起源を出願人国籍で分類すると、アメリカ41品目、日本10品目、イギリス6品目、スイス・ドイツ4品目となり、日本は医薬品発明の場という観点からも世界第2位のプレゼンスを有していることが分かった。アメリカ、日本、ドイツは親企業国籍分類と比べ品目数は増えており、主に国内で発明されていると考えられるのに対し、イギリスとスイスは親企業国籍分類に比べ品目数が減少しており、これは国外のグループ企業や子会社等で発明された品目も含まれることが示唆される。また、創出企業分類をみると、アメリカ起源の41品目中、13品目(34%)はベンチャー企業が担っており、他国に比べてその割合は突出している。対して日本起源品目は製薬企業が主体で、アカデミア起源が1品目、ベンチャー起源はなく、日本における創薬ベンチャーの育成、支援の必要性が示唆された。日本起源にアカデミア起源の品目があったように、日本においてはアカデミアと製薬企業との産学連携を通じた新薬創出例も多く、中には売上大型化に発展する製品もあり、日本のアカデミアの基礎研究力の強みも伺える。

また、世界売上高上位100品目にランクインするまでには、特許出願からおよそ15.3年(中央値)かかることも分かり、あらためて新薬創出は一朝一夕で実現するものではなく、長期的視点に立った産業政策が期待される。

希少疾病用医薬品の創出においても日本の貢献は大きい

世界売上高上位医薬品以外にも、希少疾病用医薬品や薬事上の特別措置を受けて承認された医薬品創出という観点からも、アメリカに次いで日本は高い新薬創出力を持っていることが明らかになった。今後は、バイオ医薬品の開発推進、創薬ベンチャーの育成、アカデミアとの連携など、オープンイノベーション推進が鍵となる 。これらを高めるには、アカデミアにおける基礎研究力の高さ、強さを改めて見直し、さらなる産学クラスターの形成が求められるのではないか。

また、昨今、研究費の規模などから注目度の高い中国の医薬品創出力はというと、現状のランキングには反映されない結果となっている。これは、世界的な売り上げとして上位にランキングされるには至っていないことと、おそらく中国国内向けの創薬数は一定数あるものの、グローバル承認品目という点でほぼ確認されていないという背景があるのではないかと推察される。

新規モダリティ開発も重要ではあるが、疾患メカニズム解明など疾患の根本的治療手段確立に向けた基礎研究の役割も重要と考えられる。例えば、アカデミアへの基礎研究への資金的リソース支援や健康医療に関するデータ整備、利活用促進の推進などが今後の課題と考えられる。

澁口朋之 様 プロフィール

(日本製薬工業協会 医薬産業政策研究所 主任研究員)

  • 平成14年 東京大学薬学部卒業、同大学大学院薬学系研究科進学
  • 平成19年3月 博士(薬学)学位取得
  • 平成19年4月 エーザイ株式会社入社(筑波研究所) 主に探索研究(創薬化学)に従事
  • 平成31年4月 日本製薬工業協会 医薬産業政策研究所(出向) 産業調査事業 主任研究員
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